惚れたら最後。






「夢は、私の全てだった。愛を教えてくれた、生きる意味を教えてくれた。
私が私でいられるのは、全部夢のおかげなんだ」



私は涙をこらえた。

この話をするとどうしても感情があふれ出てしまう。



「って言うのが……絆のお母さんたちに話した身の上話でね」



これ以上感情をさらけ出すのが怖くて、震える声で言葉をつなぐ。

絆は同情も蔑みもなく、真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。

すると突然、絆に抱きしめられた。



「絆……?」

「話してくれてありがとう。ごめんな、つらい話をさせて」

「……ううん、楽しい思い出もあるから。幸せだったのは確かだから大丈夫」



そう言うとわざと絆の懐から身体を離した。



「私、普通の生き方をしてないから普通が分からない。
小学校も中学校も、卒業はしてるけどほとんど通ってない。
人付き合いは正直苦手だし、あなたのお母さんみたいにはなれないと思う。
情報屋として人の汚いところばかり見てきたから、人を疑ってばかりだし、きっと絆の大切な人に対してもそういう態度をとるかもしれない。
それでも私でいいの?」



絆は言葉を真摯に受け止めると、今まで見た中で1番優しい微笑みを浮かべた。



「お前がいいんだ。“理想を演じなくていいから琥珀はそのままでいて”」



私は驚いた。同じ言葉を夢に言われたことがあるから。

過去と重ね、涙がこぼれそうになってうつむいて絆から視線を逸らした。

彼はそんな私を優しく抱き寄せ胸を貸してくれた。

やがて流れ出た涙は頬を伝い、絆の肩に小さく染みた。
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