惚れたら最後。
「壱華〜、着付けのチェック最後でいい?」

「うん、永遠がしてくれるみたいだから琥珀ちゃんを先にしてあげて。
絆が待ちわびてるだろうし」



テキパキと着付けの準備をする涼さんは、私の手を引いて敷居をまたぎ、襖を閉めた。

目の前には全身鏡が設置されてあった。

すぐに着付けが始まり、私はその様子をまじまじと見つめていた。

確かこの人は美容師なんだっけ。だから着付けとかできるんだ。

いろいろ考え事をしながら、綺麗な柄の振袖に手を通した時、ふと疑問に思った。



「この振袖……涼さんが選んでくれたんですか?」



袖や裾に向けて、赤から黒のグラデーションの振袖。

刺繍や金箔であしらわれている部分を見ると、ウン十万はくだらないだろうと思った。

涼さんはすぐには答えずに「ふふっ」と意味ありげに笑った。



「これね、絆が選んだのよ」

「え?」

「すごいでしょあの子。
和装の知識なんてほとんどないのに、あなたのためとなるとすごく真剣に選んでね。
それだけ好きなのね〜。いやぁ、青春じゃない」

「……うっ!」



青春じゃない、と笑った彼女は思いっきりヒモをきつく締めた。



「あ、ごめんね締めすぎちゃった!
感極まるとどうしても力が入っちゃうのよね。
あんな小さかった絆がいつの間にか大きくなって、彼女のために振袖選ぶなんて泣けてくる〜!」



それから30分ほどして、着付けが完了した。

涼さんは私に向けて「おつかれさま」と笑顔で声をかけてくれた。



「すごい綺麗……ありがとうございます」

「いいのよ、今日は楽しんでいらっしゃい」



その笑顔がどうしても夢と重なって、無理を承知でお願いをしてみることにした。



「あの、最後にお願いが……」

「ん、なぁに?」

「……ハグしてくれませんか?私と」



彼女はきょとんとした顔で私を見つめる。

やばい、今の発言取り消したい。

とりあえず謝ろうとすると、彼女は突然、ガバッ!と抱きしめてきた。
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