惚れたら最後。
「絆がタバコ吸うの初めて見たかも」

「そうだっけ?ああ、確かにそうかもな」

「夢とおんなじ匂いする」



琥珀のその声はひどくさみしげだった。

ちらっと彼女の横顔を見つめると落ち込んでいるようにも見える。

赤信号に差し掛かった。ふと琥珀の鼻のあたりを眺めていた。



「……そういやこれアメスピの8ミリだな」

「うん、懐かしいや」



無理に笑ってみせた琥珀は、引きつってうまく笑えないことに気がついて顔を伏せた。

赤い光に照らされる顔は次第に悲しげに歪んでいく。



「ダメだなぁ私。ごめん、新年からこんな情緒不安定で」



目元を押さえて上ずった声で謝る彼女に、空いた方の手を差し出した。



「何?」

「ん、手握っとけ。ちょっとは落ち着くかと思って」

「うん……ん?」



そのタイミングで青信号に代わったので車を前進させると、首をひねってこっちを見つめてくる。



「絆、なんで笑ってるの?」

「あー、顔に出てたか。
弱いとこ見せてくれるくらい、俺に心開いてくれてるんだと思ったら嬉しくてつい」

「ほんと?……迷惑じゃない?」

「迷惑なわけあるか。ぶっちゃけると、どんな琥珀も俺にとっちゃ可愛くてたまらねえよ」

「とどのつまり変態だよね」

「あ?」

「わーごめんなさい許して」

「棒読みやめろよ」



ツッコミに「へへっ……」と笑った琥珀。

それだけの仕草を愛おしいと感じるのは後にも先にもこいつだけだろうと、俺は煙草を咥えながら笑った。
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