惚れたら最後。
現れたのは父の志勇だった。

眉間にシワを寄せ難しい顔をしていたが、俺の姿を見ると目を丸くした。



「……珍しいな、家族全員そろってるとは」



少し驚いたように見えるその表情は柔らかい。

数時間前に憂雅を震え上がらせた人物とはとても思えない。



「志勇、今日は早く出るんでしょ?
絆にコーヒーいれてもらったから先に食べちゃって」

「おはよう壱華。今日も綺麗だな」

「ねえ、聞いてる?」



父は母の髪を撫で、額にキスをする。

まるでドラマのワンシーンのような朝の光景も見慣れていた。

親父と母さんは生まれた時からこんな感じだ。

その後、家族揃って朝食を食べている親父が口を開いた。



「絆、あれからどうなった」

「ああ、江戸川は今日中にコンタクトを……」

「志勇、絆、食事中は仕事の話はやめてね」



すかさずその会話を止めたのは、トーストしたパンにジャムを塗る母。



「ああ、そうだったな。悪い。
ただ絆の顔色が悪い気がして何かあったかと」

「寝不足なだけだよ。仕事に支障はない」

「そうか、ならいいが」



あの冷酷な帝王が実の子どもといえど他者を心配するなど驚きの光景だが、それにはちゃんと理由がある。

俺が母さんに似ているからだ。

それゆえに俺から見てわかるほど、親父は少し過保護だった。
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