惚れたら最後。
病院から車で30分走り目的地にたどり着いた。

そこは都内にある、よくありがちな外見の高層マンションだった。

ところが私はその外観を見て露骨に嫌な顔をしてしまった。



「ここって……」

「事務所が入ってるマンションだ。
最上階は組幹部のための居住スペースになる予定だったが、その幹部が※パクられちまって俺が使っている」



やっぱりそうかと顔をしかめる。

車はマンションの地下平面駐車場に入っていく。

車を空いたスペースに止めて絆が降り、続いて憂雅が星奈を抱き上げながら車から降りた。

しかし私は車の中に居座った。



「どうした?」

「……ここ、嫌だ」

「なんでだ?」

「だって最上階に行くには事務所通らなきゃいけないんでしょ?」

「……なぜそれを知ってる」

「梟に聞いた」



私は車から降りるのを拒んだ。

なぜなら、事務所を経由して別のエレベーターに乗らなせれば最上階に行けない仕組みになっているからだ。

変装もしていない素顔で組員に会うのは勘弁してほしい。



「……ただでさえ目立つから今まで変装してきたのに、他人に素顔を見られたくない」

「ふぅん」



無関心そうに生返事をした絆は、助手席側のドアから乗り込み、ダッシュボードからサングラスとニット帽を取り出し、ぽいぽいと渡してきた。



「それつけていけば分からないだろ?マスクもするか?」



さらにご丁寧に個包装のマスクまで取り出した。

極道の若頭が小娘の小言にきちんと対応するなんて、と笑いが込み上げた。



「いいよ、サングラスとニット帽だけで」

「っ、ああ……」

「……うわぁ」



すると絆が照れたように目を逸らし、憂雅は眩しいものでも見るように目を細めた。



「なんだよ憂雅」

「いや、なんか既視感あると持って。
お前もやっぱり変態的に一途なあの人の子どもだな」

「……それ親父に言っとくからな」

「はぁ!?やめろってまじで!」



わざと目を細めながら、からかうような言葉に絆はピシャリと一言。

慌てふためいて大声を出す憂雅に絆は「“セナ”が起きるだろ」と楽しそうに笑う口の前で人差し指を立てた。







※パクられる……警察に逮捕されること
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