ハツコイぽっちゃり物語
「そーいえば今日チエさんは?」
恋ちゃんの何気ない問いかけに意識を戻す。
チエさんとは私のお母さんの名前だ。
「今日はパートだよ。もうすぐ帰ってくる頃じゃない?」
時計はもうすぐ16時になるころだ。
ふと、思い出す。
もしこの時間帯、図書委員があったら――と。
また先輩に会える日が来ると思うと胸がわくわくする。
はやく委員会の日にならないかなぁ。
なんて夢見心地でいると頬に激痛が走った。
「――っ!!いひぁいいひぁい!」
あまりの痛さに涙が浮かぶ。
そんな様子に目もくれず
私の頬を引っ張りながら不機嫌そうにこちらを見る彼。
ちゃんと言語化しきれてない「離して」を伝えても全く手を離してくれず、強さだけが増していく。
そして引き伸ばされてからやっとその手は離された。
「もうっ、なにすんの!」
「変な顔してたから」
へ、変な顔!?
そんな顔してた覚えは……。
「そんで何となくムカついたから」
そう付け足した後に口が尖ったのを私は見逃さない。
……やっぱ不機嫌、だ。
恋ちゃんが不機嫌なときは言い終わった後必ず口が尖る。
私は知ってる。