雨は君に降り注ぐ
『バスケサークル、あんまりいい噂は聞かないから、気を付けたほうがいいよ。』
先輩と知り合ってそうそう、そう忠告されたことを、私はまだ鮮明に覚えている。
ずっと、頭のどこかに引っかかっていた。
あれは一体、どういう意味だったのか。
一ノ瀬先輩は、何を知っているのか。
「噂って、どんなものなんですか?」
一ノ瀬先輩は、一瞬、考えるような仕草を見せた。
言葉を探して、選んでいるようだった。
「僕も、あまりよくは知らないんだけど。」
少し、困ったような笑みを浮かべる。
「また聞きのまた聞きだから、確かな話ではないんだけど、いい?」
私は、小さくうなずく。
先輩の笑顔から、困惑が消えた。
「ここのバスケサークルって、涼介さんが仕切っているじゃん?」
私は、再度うなずく。
「でも、その涼介さんも知らないところで、もう1人、リーダー格の人物がいるらしいんだ。その人は、分かりやすく言うとワンマンで、自分の気に入らないメンバーが入ってくると、すぐに排除しちゃうんだとか。」
こういう話になることは、なんとなく予想がついていた。
だから、驚きはしなかった。
先輩は、全く動じない私を見て、少し首をかしげた。
「その、排除の仕方が、かなり過激らしくて、はっきり言うと、重度のいじめ。その人に気にいられなかったメンバーは、徹底的にいじめられて、最終的に、バスケサークルをやめてしまう。ひどい人は、大学までやめてしまう。もっとひどい人は…。」
先輩は、そこで1度言葉を切った。
「これは、あくまで噂だよ?」
先輩は、確認するように、私に言う。
私はまたうなずく。
これから先輩が言おうとしていることも、なんとなく分かる。
「バスケサークルが原因で自殺してしまう人も、少なくないらしいんだ。」