雨は君に降り注ぐ

 涼介先輩は、今度は高井先輩の方へ視線を向ける。

「高井も、辛いこととかあるんなら、俺に相談してよ。一応、サークルのキャプテンなんだからさ。1人で抱え込むなよ。」

 涼介先輩の口調は、どこかとがっているように聞こえた。

 怒っているのだろう。

 トラブルを引き起こした新川先輩や、高井先輩に対して。
 そのトラブルに気づくことのできなかった、自分自身に対して。

「新川。」

 涼介先輩は、再び新川先輩に向き直る。

「お前がどんな気持ちだったとか、どんな事情があったとか、そんなことは、誰にも分かりやしないんだ。誰にも理解できやしない。俺は理解したくもないね。いじめを楽しいと思うやつの心情なんか。」

 新川先輩は、唇をかみしめ、ただただ地面を見つめていた。
 涼介先輩は、かまわず続ける。

「俺は、小澤さんの言うとおり、いじめは悪いことだと思ってる。人を理不尽に気づつけて、そんなの許されるわけないだろ。俺は、自分の後輩が傷ついているところは見たくないし、それに、」

 涼介先輩は、そこで1度言葉を切った。
 そして、新川先輩に優しく声をかける。

「俺の同級生に、こんなこと、してほしくないんだ。」

 新川先輩は、私に背を向けて立っているので、表情まではうかがえない。
 ただ、その肩が、小刻みに震えているのはよく分かった。

「ごめんなさい…。」

 その声も、小刻みに震えていた。

 やがて、新川先輩は、目元を手で拭うと、女子3人を引き連れて、中庭から離れていった。
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