雨は君に降り注ぐ

「俺のせい、なんだよな…。」
「え?」

 隣に腰掛ける父は、ひどくうなだれていた。
 まだ40代前半の父の髪には、何本かの白髪が目立つ。

「俺が、もっと早く、美里の病気に気づいていれば…。」
「しょうがないよ。父さんは、仕事で大変だったんだから。」

 冷たい声が出た。
 父は、申し訳なさそうな眼差しで、私を見る。

「…私のせいなんだよ。」
「結希…?」
「だってそうでしょ?!」

 叫びだしたくなる衝動を抑えて、私は静かに怒鳴った。

「私が母さんのそばにいれば、癌がもっと早く見つかっていたかもしれない。私が無理行って1人暮らしなんて始めなければ、母さんは死なずにすんだかもしれない!」
「結希…。」
「全部、私が悪いんだよ…。」

 言ってしまうと、とんでもない脱力感に襲われた。

 そうだ、私が悪い。

 両親の言うことを聞かず、家を飛び出した私が悪い。
 1人暮らしを始めてから、1度も実家に連絡をしなかった私が悪い。

 両親の心配なんて少しもしなかった、私が悪い。

 愛されていなかったのは、私じゃない。
 嫌われていたのは、私ではない。

 私が、両親のことを、嫌っていたのだ。

 母は結果しか見ていないと、父は私に興味が無いと、そうやって勝手に決めつけて勝手に傷ついていたのは、他でもないこの私だ。

 本当は、違う。

 母は私のことも見ていると、父は仕事だけの人ではないと、本当はずっと前から気づいていたのではないか。

 そうだ。

 私は、両親から愛されていた。
 嫌われてなどいなかった。

 そんなこと、気づいていた。
 だいぶ前から知っていた。

 分かっていた、はず、なのに。
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