雨は君に降り注ぐ

 アパートの自室へ入り、すぐに鍵を閉める。
 ついでにチェーンもかける。

 白テーブルの上には、新しい封筒が置かれていた。

 驚きはしない。
 いつものことだから。

 さっきの、電話の言葉を思い出す。

『よく言うよ。一ノ瀬のこと何も知らないくせに。』
『そんなんで、よく好きだとか言えたな。』

 そうだ。
 私は、一ノ瀬先輩のことを、何も知らない。

 それでも、この感情に偽りはない。
 何も知らないのなら、『好きだ』と言ってはいけないのか。
 そんなわけないだろう。

 私の気持ちなんて、私の勝手だ。
 それなのに、あのストーカーは何様のつもりで…。

 恐怖より、怒りが湧いてくる。

 でも確かに、一ノ瀬先輩の過去って、一体どんなものなんだろう?

 嫌われたとはいえ、私はまだ、一ノ瀬先輩のことが好きで好きでしようがない。
 好きな人の過去。
 気にならないわけがない。

 一ノ瀬先輩の、過去を知りたい。

 でもそれはつまり、一ノ瀬先輩のことを深く詮索する、ということになる。

 それは失礼じゃないか。
 現に、私は今、一ノ瀬先輩の彼女さんについて聞いてしまったばっかりに、先輩から避けられている。

 でも…どうせ嫌われているなら。

 私は、先輩のことを、もっと知りたい。
 切実にそう思うから。

 私は今、強く思う。

 一ノ瀬先輩の過去を、すべてを、深くまで知りたいと。
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