身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 だが、近所の桜の木がある公園や神社、そして河川敷。その場所に立っても、何もわからなかった。
 わかるはずもないのだ。そこに桜門に繋がる物や人がいるとは限らないのだから。


 「何、やってんだろ………」


 苦笑を浮かべながら、文月はハーッと大きなため息を吐いた。体温が上がっているからか、真っ白で濃い息が口から出てきた。
 今日は随分と寒いようだ。
 文月はそんな事を感じる暇もなく、1時間以上も走り回っていたのだ。せっかくの休みに何をやっているのだろう。早く帰って祖母の部屋を綺麗に掃除しよう。
 『身代わり』を願うなんて、ありえないのだから。
 そう思い、右指の指輪にソッと触れた。


 「………ぇ………花びら……」


 どこからともなく、目の前にヒラヒラと舞う薄ピンクの花びらが現れた。
 それは舞っているようでいて、どこか操られているように感じる動きだったが、冬には似つかわしくない珍しい光景に、文月は好奇心から手のひらを差し出した。すると、それを待っていたかのように、花びらは文月の手に載った。
 その花びらは日本人ならばすぐにわかる、馴染みの花だった。


 「桜の花びらだわ……」


 ますます冬に似合わない。
 不思議な思いでそれを見つめた。と、フッ、と視界が変わった。それは夢を見ているような感覚であった。
 幼い頃に、祖母と散歩で訪れた、懐かしい場所。坂があり、苦しかったけれど、祖母が「がんばれがんばれ」と手を握りながら応援してくれた。遊び疲れて帰りの下り坂は抱っこをしてもらった。
 そんな温かな記憶が残る場所。


 「青樹城………」




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