身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「………白銀さん……。早く病院に戻りましょう。少しでも長く生きていないと、会いたい人が悲しみますっ」


 文月は咄嗟にそんな事を口走っており、白銀の手を握り、早く病院へと向かおうとした。
 文月の頭の中には、昔の記憶がよぎっていたのだ。大切な人、祖母が亡くなった時の記憶だ
。苦しむ祖母を見て、笑って欲しい、話して欲しい、また2人で過ごしたい。
 少しでも祖母と長くいたいと強く思った。


 「………俺の会いたい奴は深く眠ってるよ」
 「……それってどういう意味ですか?」


 亡くなっているという意味ではないだろう。死んでしまった人を蘇らせる事は桜門でも出来ないだろう。そうなると、昏睡状態の人を助けたいという事なのか。
 そんな考えを持ちながら、神妙な面持ちでそう質問をした。だが、答えたのは白銀ではなく桜門だった。


 「先程話しただろう。この男はAIドールを作っているものだって」
 「そうそう。ちまたで増えているAIドールは俺が開発したものなんだよ。もちろん、俺一人で作ったわけじゃないけど、責任者は俺だよ」
 「す、すごい方だったんですね」
 「そういう事だよ。だから、俺が助けて欲しい大切な人というのは、ドールなんだ」


 目の前にいる男性が、あの有名なAIドールを作った人。そんな偉大な男性と酒を酌み交わし話していたのも驚きだが、それが薄れてしまうぐらいに彼が話した内容が衝撃的だった。
 助けて欲しい大切な相手というのは、人間ではなく人形だという事だ。



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