身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 ツボミはゆっくりと手を上げて、白銀の目元に触れた。少し温かいが、肌より弾力があり、涙をはじく偽りの指先。ツボミが涙を拭ってくれたのだ。


 「ありがとう。でも、涙を流す時は何も悲しい時だけではない。嬉しい時、感動した時も涙が出るのだ」
 「では、マスターが泣いているのは、どんな理由ですか?」
 「君と話せるのが嬉しいからだよ」
 「………私と話すのが?」
 「あぁ………」
 「それは、私と同じですね。私もずっと話したかった。嬉しいです」
 「そうか。……同じ、か」


 嬉しい時の表情は笑顔。満面の笑み。目を細めて、広角を上げる。そうシステムに落としたのは自分だ。それにならって、ツボミが行っているだけ。

 そんな事はわかっている。
 けれど、ツボミは嬉しいと言ったのはなぜなのだろうか。マスターが喜んでいる時は共に喜んでいるだけなのか。
 白銀は、それでもツボミが動き、自分の言葉を交わす時間がとても幸せだった。

 長年の夢が叶い、悲願を達成した瞬間。

 白銀は、ツボミという存在が何よりも大切になったのだった。





< 124 / 200 >

この作品をシェア

pagetop