身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 「だから……次は私が桜門さんを守りたい。海里………って呼んだ方がいいのかもしれないけど………私は初めて会ったのが桜門さんって呼びたいです」

 ふわりと草木の香りがする春の風が文月を包む。それが桜門が迎えに来た時と同じ風のようで、文月は最近ドキッとしてしまう。
 けれど、その風は桜の花びらを運んでくる事も、あの幻想的な桜並木を見せる事も、銀色の綺麗な髪と着物を揺らして「文月」と呼んでくれる彼が姿を見せる事もない。
 そして、虚しくなるのだ。どこを探しても、この世界には彼はいないのだと思い知らされる。



 「桜門さん……私、早く会いたいです。この世界じゃなくてもいい。死人の桜門さんでもいい。この世界であなたと会えたならば、そんな事どうでもいいんです。だから………会いたいです。………あなたが好きだから………」


 こんな事を独り呟いてしまうのは、どうしてだろうか。
 今日は特に感情が高ぶる。桜の季節になり、少しずつ桜の花を見るようになってしまったからだろうか。


 背が高い城門。「桜門」という門を見上げる。少し陽が沈むのが遅くなった夕焼けに光るそれを見つめて、文月は大きくため息をつく。


 「………桜門さんに会うまで、諦めないですよ。強情なの、知ってますよね?」


 そう言って、桜門を見つめながら微笑む。

 きっと、この言葉は彼に届いてるはずだ。
 そう信じて。





 と、その時だった。
 空からヒラヒラと舞い落ちるピンク色の花びらを見つめ、文月は目を開いた。

 そして、それに向かって手を伸ばすと、春の温かさとは違う、懐かしい冷たさが文月の指先に触れられた。




             (おしまい)



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