身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 「っっ………ごほっ……くるし……」
 「た、大変だわ!文月、お医者様を呼んでくるわ」


 泣きそうな顔で、必死に駆け出す祖母の背中を見つめる。そんなに走ったら転んで怪我をしてしまう。自分の事など気にしなくていいのに。
 ………どうせ、もうすぐに死んでしまうのだから。
 苦しさから涙を溢し、文月は庭のベンチで踞りながら意識を失った。






 気づいた時には、病室に戻され酸素マスクをつけられ寝かせられていた。腕には点滴の針が刺さっていた。
 あぁ、これならしばらくは苦しくないな。そんな風に思い薄目のまま周りを見渡す。

 すると、文月の傍に座り、涙を流している祖母の姿が見えた。


 「可愛そうに……まだ中学生なのに苦しい日々を送るなんて。文月の辛さを私は知ることも出来ない。こんなに可愛い子が私より早くに…………」

 
 祖母だけが自分のために泣いてくれる。
 そんな人がいる事は幸せだと思う。
 祖母が手を握ってくれたのか、文月は点滴が刺された手にぬくもりを感じた。それだけで、どこか安心出来る。


 「あなたの変わりに、私がその病気を貰えればいいのに……」


 そんな弱々しい言葉が聞こえた。
 こんな苦しい事を祖母になどさせられるはずがない。自分はもう慣れているから平気だ。
 あと少しで、それも終わる。自分の体なのだから、わかるのだ。もう、終わりなのだと。
 だから、そんな事を言わないで。そう祖母に伝えたかったが、酸素マスクのせいでうまく言えないまま、そのまま文月は眠りについた。


 それから数週間後。
 余命宣告をされていた文月の病気は何故か完治した。


 そして、それから半年後。
 祖母のみき子は、文月と同じ病気を発症し、亡くなった。




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