身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「あぁ、そうだ。俺とはこの桜門に来なければ話せはしないが、手紙を燃やせば、その相手が死人であれば届くと教えたのだ。そして、この指輪は身代わり依頼の対価だ」
 「対価?」
 「神とは違うからな。身代わりの依頼を受けるわかりに、持っている貴金属を貰ってるんだ。みき子はこれを対価として選んだ」
 「そ、そんな……!おばあちゃん、この指輪、とっても大切にしていたのに」


 文月は自分の指輪に触れながらそう訴えるが、桜門は笑顔のままゆっくりと首を横に振った。


 「みき子が選んだ、と言っただろ。みき子は、結婚指輪があるから大丈夫。それにあの人に今から会えるんだから、と言っていた」
 「………おばあちゃん………」
 「だから、この指輪は俺のものだ。文月とお揃いだ」
 

 文月の右手に自分の右手を重ねた桜門は、嬉しそうにそう言って2つのブルーダイヤモンドを眺めた。
 キラキラと光る2つの指輪。この指輪が揃うことはもうないと思っていた。いや、実際は1つは死んでいるものだから、実在しないはずだが、こうやって並ぶと祖父と祖母を思い出すことが出来、文月は胸の奥が熱くなった。
 そして、その2つの指輪が文月と桜門に受け継がれた。それが妙に気恥ずかしくもある。
 文月は桜門の綺麗な瞳から目を逸らした。



 「ここでは無理だが、おまえの世界に戻ったらその手紙を焼いてくれ。そうすれば、俺の元へ届く」
 「わかりました………」


 そう言うと、どこからともなく風が吹来はじめた。
 サラサラと桜の木が揺れ、桜吹雪も激しくなる。あぁ、その世界ともお別れなのだろう。
 文月の用事は終わったのだから、その場に居る事も桜門と会うことも必要ないのだ。

 桜門の口がゆっくりと開いた。
 お別れの言葉でもいうつもりなのだ。
 ずっと変わらない、その優しい笑みのままで。
 もう、彼と会うことが出来なくなるのだ。



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