身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 実家でもすることがない文月は、すぐにお風呂に入り、そのまま寝てしまおうと思った。けれど、部屋で懐かしい小説を見つけ、ページを捲ると止まらなくなってしまい、気づくと夜中になっていた。
 文月は喉の乾きを覚え、水だけでも貰おうと台所へと向かった。

 すると、両親の部屋のドアが少し開いており、そこから光が覗いていた。どうやら旅行の準備をしており、それがまだ終わってないようだった。顔を合わせるとまたお小言を並べられるかもしれない。さっさと台所へ行こうと、足音を立てずにゆっくりと移動しようとした時だった。


 「母さんの命日か……急に同じ病気が発症した時は驚いたよな」


 父親のその言葉が耳に入り、文月はドキッとした。母さんというのは、文月のとっての祖母だ。盗み聞きはよくないと思いつつも、文月はその場から離れることが出来なかった。ずっと気になっていた事なのだから。


 「そうね。文月の難病がうつるものではないとお医者さんからは言われていたけど……でも、少ない病気なのに家族でなるなんて、しかも高齢になってからなんて、おかしいって話してたわよね」
 「………それだけじゃないしな。おかしな事は」
 「余命宣告されていた文月の病気が完治して、母さんが同じ病気、同じ期間の余命宣告をされるなんてな」


 ドキッと全身から強く鼓動を感じる。
 自分の鼓動が外に漏れているのではないか。そんな錯覚を覚えるほどに、文月の胸は大きく鳴っていた。そのせいで、両親の小さな声は聞こえなくなってしまいそうだった。そのため、文月はドアに1歩近づいた。


 「恐ろしいやつだよ」
 「えぇ………。祖母に病気を身代わりにさせて、自分を助けるなんて」
 「呪いでもやったんじゃないかって今でも思うな」


 心の底から怖がっているのだろう。
 声が低く、震えているようにも聞こえた。
 文月は悲しみと怒りを感じ、今すぐにドアを開けて怒鳴り子みたい衝動に襲われた。
 けれど、そんな事をしても両親の気持ちが揺れることなどないのは、今まで共に過ごしてきた日々で知っている。

 文月は隠れて深呼吸をして自分を落ち着かせてから、その場から離れようとした。



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