身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 夜だというのに、自分の周りが妙に明るいのだ。
 気づくと、車がこちらに向かって走ってきていた。ガードレールがない、交差点付近から暴走した車が姫白の方へ走ってきていた。
 
 もう間に合わない。
 ひかれてしまう。
 ………でも、最後に黒夜に会えてよかったな。
 しっかりと謝りたかったけど……きっと彼には伝わっているよね?
 黒夜、本当にありがとう。

 たった数秒もない時間のはずだが、死ぬ間際はやはりスローモーションに感じるようだ。
 最後に見た顔は、驚き顔が歪んだ黒夜だった。

 彼が怪我をしてしまったら、もう絵が描けない。だから、私でよかった。

 そんな風に思ったのに………次に目を開けた時には、血まみれの黒夜が倒れて目の前に倒れていた。


 「な、なんで………いや………黒夜……いやーーっっ!!」


 車にぶつかる瞬間に、彼が白姫を突き飛ばしたのだろう。姫白は、歩道に倒れてしまった。けれど、それぐらいで怪我をするはずもない。
 黒夜は車に接触したのだろう。大ケガをしてしまったのだ。

 彼の右腕が怪我をしてしまった。血が溢れ、腕も曲がっている。
 彼の夢を叶える腕。人を感動させる絵を生む手。
 そんな手が使えなくなってしまう。

 そんなのはおかしい!
 私が怪我するべきだった。黒夜に助けられるような人間ではないのだ。

 お願い……この黒夜の怪我を私に変えてください。誰でもいい。神様でも、仏様でも、天使でも悪魔でもいい。


 この願いを叶えて欲しい。


 ボロボロと泣きながら姫白は、苦痛に歪む黒夜の体を抱きしめた。


 その時に姫白の願いを叶えたのは、神様でも仏様でも、天使でも悪魔でもなかった。


 死人、桜門だったのだ。




 
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