身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 どんな事があっても彼女を迎えにいくつもりだった。それは本心だった。
 けれど、自分の右腕がなくなり画家として生活出来なくなったら。自信を失い、そして彼女を支えていく事が困難になってしまう。そうなった時に、自分は姫白を迎えに行く事なのできたのだろうか。
 そう考えると姫白の考えと同じような答えになってしまうのだ。

 彼女が苦労している事も多いはずだ。
 だからこそ、この結果が良かったとは言えない。けれど、それはどんな事でもそうなのかもしれない。



 「黒夜ー?どうしたのー?ボーッとして」
 「あ、あぁ……悪い。考え事してた」
 「そう?じゃあ、お店の片付けしてくるね。今日の夕飯はどうする?」
 「家に帰ってから一緒につくろう」
 「わかった!じゃあ、少しだけ待っててね」


 考え事をしていた黒夜を見てクスクス悪い、小さく手を振り店へと戻っていく姫白はとても楽しそうだった。学生の頃と同じ笑顔だ。
 同窓会で再会した時は、あの頃の彼女とは雰囲気が全く変わっていたのを、黒夜は覚えていた。
 きっと、新体操を続けると言う約束を守れなかった事から負い目を感じていたようで、ビクビクとした様子だった。それに、少し寂しそうで、何もかもを諦めているようにも見えた。
 そんな彼女が、黒夜の個展のチケットを渡すと、目を輝かせて喜んでいたのだ。
 姫白は自分の作品を楽しみにしていてくれた。会えなかった時間も、自分の作品を見ていたようで、とても嬉しそうに話をしてくれたのだ。
 そんな彼女を見て、黒夜はとても嬉しかった。姫白が喜んでくれるような絵を描けていたのだと、更に自信をもらったような気がした。
 好きな人が自分に与える影響というものは、かなり大きいなと黒夜は改めて感じた。




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