身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「桜門さんの昔の話を教えてください」
 「……そんな話つまらないだけだ。他に何かないのか?」
 「特には……」
 「………なんだ、抱きしめてほしいとか、頬に口づけとかあるだろう……」


 何故かつまらなそうに、小声で何かを言っている桜門。文月にその言葉はあいにく届かなかった。


 「何か言いましたか?」
 「………言っていないな」


 独り言だろうか、と首を傾げながら文月は彼の返事を待った。すると、彼は苦笑しながら頬をかいた後にゆっくりと口を開いた。


 「俺は大昔にこの桜並木で死んだんだ。そして、きっと桜が燃えた時に一緒に死んだんだろうな。だから、俺を桜門と名付けたらしいから」
 「え……亡くなってから名付けたって誰に名前を貰ったんですか?」
 「………それは、次の依頼も成功したら教えよう」
 「え……ちょっと待って………」
 

 まだ聞きたいことはある。
 それにここに居たい。
 それなのに、また桜吹雪が文月を包んだ。以前と同じように、桜門が家まで運んでくれるのだろう。助かるが、今は彼と話がしたかった。


 「じゃあ、桜門さんの本当の名………」
 



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