翠玉の監察医 消されるSOS
「まあ、神楽さんの気持ちもわかります。でも一応あの場所も世界法医学研究所の敷地内ですし、不法侵入になりますよ」

圭介がそう言い、話し合った結果、今日の夜に早速捕まえることになった。



その日の解剖も未成年のものだった。桜木(さくらぎ)刑事が依頼してくれたもので、親からの心理的虐待によって自殺をした中学生のものだった。

「言葉も人を傷付けますよね。傷付ける人が親ってどうなんでしょう……」

解剖が終わり、報告書を書いた後、帰宅するために駐車場へと向かう蘭の隣で圭介が呟く。ご遺体に外傷はなかったものの、書かれていた遺書には両親に対する恨みが綴られていたと聞かされてからずっと彼の表情は暗い。

「仕方がないことだと思います。人が人を傷付けてしまうということは……」

蘭は過去を思い出しながら呟く。両親はとても優しい人だったが、親戚たちからかけられた言葉は蘭の中に今でも残っている。

「親であろうと人間です。人はみんな不器用なのです。言葉などで人を傷付け、相手をねじ伏せてでも自分を貫こうとする人はいます。深森さんの環境が恵まれていただけです」
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