エチュード〜さよなら、青い鳥〜
四辻は、多くを語らない。ただ、耳を音楽に傾けている。もしかしたら今、この店内で梅田の演奏に集中しているのは、四辻だけかもしれない。


梅田の演奏が終わると、パラパラと拍手が湧く。


「なるほど上手いな。でも…」


独り言のように呟いて、四辻は考えこむようにその先の言葉を飲み込んだ。


「でも?」


気になる初音は、言葉を促す。
だが四辻は、すぐそばのテーブルに戻ってきた梅田を気にしているのか、首を横に振った。

「いえ、何でもありません」
「気になります。四辻さんの率直な感想を聞かせて?」
「…」

四辻は周りをちらっと見渡し、初音しかいないことを確認すると、そっと彼女の耳元に唇を寄せた。


「全く響かない。ただの技術のひけらかし。二度と聴かなくてよろしい」


あまりの酷評に、一瞬、初音はポカンとした。
みんな、互いに牽制し合い、口先で褒め合う。本音なんて決して言わない。そんな友人に囲まれて日々を過ごしていた初音にとって、四辻の言葉はあまりにストレートで、逆に新鮮だった。


「…やっぱり、四辻さん、最高。ね、四辻さんの思うベートーヴェンのピアノソナタについて、聞かせて?お気に入りの曲とかある?」









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