エチュード〜さよなら、青い鳥〜
第2章 矜持

一次予選

コンクールは、一次予選、二次予選、本選と続く。



いよいよ、一次予選当日となった。
昔から、多忙な両親は予選を見に来ない。
四辻は急ぎの仕事が入ったと、初音を会場に送ってくれた後、会社に行った。休みをとってくれていたのに、残念だ。


一次予選は、ベートーヴェンのピアノソナタ。
ここが一番の勝負どころだと思う。ここで通過できれば、勢いがつく。



「私、トップバッターなのよ」

萌が、自信に満ち溢れた顔で立ち上がった。
やはり、場慣れしている。まるで緊張していないみたいだ。

「ざっと見た感じ、知ってる顔ばっかり。敵はいないわ。初音も一次予選くらいなら通過できそうよ」

「…そう?」

「もしかして一次予選くらいで緊張してる?まさかね、初音に限ってそんなわけないか。
出場さえすればいいんでしょ?さすがに一次予選くらいは実力で通過しておかないと、就職するにも影響あるかな?」


場慣れしている萌は、余裕たっぷりだ。しかも嫌味までたっぷり。
初音は久しぶりの緊張感で、萌のトゲを含んだ言葉に言い返す言葉を探すのも億劫になる。
ただ緊張していても、表面には出さない。
口角をわずかに上げ、目に力を込めて勝気な表情を作る。
どんな時も、『丹下の令嬢』という矜持が、弱さを晒すことを許さない。


「さてと。行ってくるわ」

そんな初音に、自信たっぷりの笑みを向けてから、ドレスの裾をつまんで萌が控え室を出て行った。


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