魔女と王子は、二度目の人生で恋に落ちる。初恋の人を生き返らせて今度こそ幸せにします!
好きな人に会いに行ったら、お亡くなりでした。
 魔女にとって、17歳は特別。
 厳しい修業を終え、やっと一人前の魔女と認められる年齢が17歳だ。

 ――ザッ……ザッ……。

 私は、銀色の杖で大きな魔法陣を描いていく。

「ユズリハ、本当に今すぐ会いに行くの?」

 そう尋ねたのは、一緒に暮らしている銀狼獣人のハクシン。
 見た目は20代後半なのに実は50歳超の彼は、私にとってお父さんでありお母さんであり、大切な家族だ。

「行くに決まってるじゃない!十年も待ったのよ?」

 修業を終えた魔女は、代々受け継がれてきた秘術を使うことができる。
 この秘術は『会いたい人に会いに行ける転移魔法陣』。

 大人が3人は入れる大きさの魔法陣を、特製のインクで丁寧に描き上げた。

 転移魔法陣は魔女の中でも一握りしか扱えず、しかも出口(転移先)に魔法陣を描いていないのに飛んで行けるのは今から使う銀杖(ぎんじょう)の魔女の魔法陣だけ。

「ウィル様、どこにいるのかなぁ」

 初恋の人のことを想えば、ときおり頬にかかって邪魔してくる黒髪も苦にならない。
 別れたときはまだ二人とも子どもで、ウィル様ことウィルグラン殿下のことは10歳の頃の姿しか覚えていない。

 艶やかな青い髪に、深みのある菫色の瞳。正義感が強くて優しい王子様に、私は恋をした。

 会いたくて、会いたくて、会いたくて、ずっと忘れられずに10年が経つ。

「できた!」

 2時間かけて完成させた魔法陣の中央に、私は背筋を伸ばして立つ。

「さぁ、私をウィル様のところへ連れていって!」

 祖母に教わった呪文を唱えると、魔法陣は私の魔力を吸収して七色に輝きだした。
 温かい風が魔法陣から巻き起こり、長い黒髪がふわりと舞い上がる。

 ようやく会える。
 ドキドキする胸を深呼吸して落ち着かせた。

 ――シュンッ……。

 七色の光と足元から吹いていた風が収まり、肌に触れる空気が変わったことを感じて私は目を開ける。

 転移は成功していた。

 そう、成功している……よね?

「………………え」

 目の前に広がるのは、真っ白な空と黄金色の巨大な門。

 扉の脇には通用口があり、そこに座っている守衛のウサギ獣人は顔見知りだ。

 知っている。
 私はここを知っている。

 だって、先週も来た。

「あれ?ユズリハ、今日はちょっと色の違う魔法陣だったね。術式やインクを変えた?」

 ウサギ獣人が興味津々といった表情で尋ねる。

「なんで?」

 膝から崩れ落ち、唖然とする私。何でこんな場所についたのか意味がわからない。わかりたくない。

 ――カランッ。

 杖がするりと手から抜け落ちる。

 ぺたんと座り込んだ私の周りには、ふわふわと白い人魂が集まってきて、まるで私の顔をのぞきこむように斜めに傾いた。

 長い耳をぴょこぴょこと揺らすウサギ獣人は、不思議そうに私を見る。

「ユズリハ?今日も魔法道具の納品?先週来たばかりだよね」

 頭の中がぐちゃぐちゃで、問いかけに答える余裕はない。
 目に映る景色が信じられず、ぽかんと口を開けたまましばらく時間を消費した。

 ここはどう見ても冥界。
 先週、冥王様のお気に入りのお菓子や魔法道具の納品に来たばかりである。

 なんで?
 ウィル様のところへ飛んだはずが、どうして冥界に着くの?

 術が間違っている?

 ううん、間違っていたなら転移は失敗して何も起こらない。

 つまり、ウィル様は…………。

「嘘だ、嘘だ、嘘だ。こんなの絶対にありえない」

 ねぇ、ウィル様はなんで冥界にいるの!?

 大きく息を吸った私は、宙に向かって十年分の想いを吐き出す。

「ウィル様が死んでるってことぉぉぉ!?」

 銀杖の魔女、ユズリハ。
 魔法陣で好きな人のもとへ転移したら、お亡くなりになっていました。
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