生まれ変わっても義弟は許してくれない。
義弟を愛した義姉。

前世の話。







突然だが、前世の話をさせて欲しい。


前世の私には2歳下の義弟がいた。
莫大な資産を持つ名家の一人娘、それが私。そしてその家を継がせる為に父が連れて来た子どもが義弟だった。

私は義弟が大好きで大好きで仕方なかった。私たちが出会ったのは私が8歳、義弟が6歳の頃。出会ってすぐにその天使のように愛らしい義弟の姿に私は夢中になった。

だけど義弟はそんな私とは裏腹に10年間、私が嫌いだった。


「本当は全てを持っていて、苦労なんて何一つしていなくて、悪意を知らず、誰にでも手を差し伸べることができる姉さんがずっと大嫌いなんだ」


そう18歳の時に言われ、とてもショックだった。だが、義弟はいつも私に対してどこか壁を作っているような笑みを浮かべていたのでショックだった気持ちもあったが同時にどこか納得している自分もいた。

義弟に大嫌いだと言われた後も10年続けてきた私たちの関係は特に変わらなかった。義弟を可愛がる私とそんな私を嫌な顔一つせず受け止める義弟。偽りの関係だったかもしれない。だけど、それでも私はその関係に満足していたし、幸せだった。

だからだろうか。私は20歳の時に通り魔に襲われて死んだ。
義弟に無理をさせ続けた私にきっと神様が天罰を与えたのだ。


「姉さん!姉さん!」


死に際に見たのはいつも張り付いたような笑みを浮かべていた愛らしい義弟の泣き叫ぶ姿で。

大嫌いだった相手の死なのに彼は最期まで私の理想の弟であってくれるのか。なんて優しい子なのだろう。

私はその初めて見る義弟の取り乱す姿に不謹慎にも嬉しく思い、そして何より愛らしく思えてしまった。


「これから買い物に行くんでしょ?来週は旅行にも行く約束をした。それから姉さんの時間全部僕にくれるって言ったじゃないか」


刺されて血が止まらない私の体を抱き抱えて義弟が叫び続ける。必死に私に呼びかけることを止めない。

そう、たくさん約束をした。私がたくさん彼に無理を言った。彼は全部覚えてくれていた。
私の時間を全部あげる発言なんて、義弟となんとか仲良くなりたくて言った幼少期の頃の遠い約束だと言うのに。


「許さない、僕を置いて行くなんて許さない!」

「ゆ、ゆるさ、なくていい、よ、ゆう」


死んでしまうというのに私は嬉しくて涙を流した。もしかしたら私は義弟にそこまで嫌われてなかったのかもしれない。
だって目の前で泣いている義弟は本当に私の死を嘆いているようにしか見えないから。


「綾っ」


義弟か泣いている。
許さないでね、こんな歪んだ姉なんて。

愛していたよ、優。
私の大切なたった1人の弟。









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