いつか夏、峰雲の君

 やがて来る時。巡行列車の汽笛と共に現れた彼女の両親が、僕の手からそのハンドルを引き継ぐのだ。


「ありがとう」都会の匂いを纏った彼女のお父さんが、夏希と同じ色をした目で僕を見る。


 本当にそっくりな瞳。その時のおじさんの目は、夏希が泣いているときの色に……。


 そしておじさんは僕に、片腕に納まるほどの紙切れを一枚手渡すのだ。


「手紙、いっぱい書いてやってくれ」


 発車ベルの音が鳴り響き、夏希は扉の向こうへ去っていく。「必ず会いに行く」別れ際にそう言い残して。


 ゆっくりと進む列車を、僕はどこまでも追いかけた。


 西へ西へ、やがて奥羽の山々まで辿りついてしまいそうな程……


 結局、それが最後に聞く彼女の言葉になるとも知らずに——

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