だから私は、今日も猫を被る。

02.なぞのコメント



朝、七時五〇分。いつもならこんな時間に学校へ来ることはなかったが今日は早く目が覚めたせいで、いつもより十五分も早く登校してしまった。

もっとゆっくり来ればよかった、そう思ったけれど家にいても生きた心地がしない。
だから私は学校へ早く行くことを選択した。

おかげで友人二人はまだ来ていない。
クラスメイトはちらほらいて、おはようと声をかけるとおはようと返事が返る。
仲が悪いわけじゃない、話せばふつうに話せる。だけど、私はこれから始まる一日をいい子で過ごすために力を温存しておかなければならなかった。

だから私は寄り道もせずに真っ直ぐに自分の席へと向かうと、椅子に磁石でもついているのか引き寄せられるようにそこへ座った。
そして窓の外を眺めた。
眺めたというよりはボーッとしていた、の方が正しいだろう。
私は何も考えなかった。頭をからっぽにしたかったから。
いい子を演じるためには体力が必要なのだ。


秒針が動くたびにいい子になる時間が迫ってきている。
その重圧が私を襲う。

「はあ…」
もれたため息は、開いていた窓に吸い込まれるように外へ逃げる。

クラスメイトは楽しそうにおしゃべりをしているのに、私だけが別世界にいるような錯覚を起こしそうになる。
私の座っている席の前に線でも引いてあるかのように、誰もそこから踏み込んではこない。
まるで私の存在なんて見えてないかのようだ。
それとも私って透明人間なんだっけ。


かばんの中からスマホを取り出すと、二人に内緒でしているSNSを開いた。
とはいってもフォローもしていなければフォロワーもいない。どこにも繋がらない、苦しい心を吐き出すためだけに作られた専用の場所。
アカウント名は、七海の七を平仮名に変換して"なな"となんともシンプル。
べつにそれだけじゃ私だと気づかれないだろうから。だってこの世界にななって名前はいくつもあるはず。
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