だから私は、今日も猫を被る。

17.仲直りの握手




あお先輩に家まで送ってもらったあと、玄関のドアを開ける前に、ふうー、と呼吸を整えて
ガチャ──、
そして閉まる音が響くと、

「七海!」
「七海ちゃん!」


お父さんと早苗さんの声が重なって、現れた。
ほんの一時間ほど前の出来事で気まずかった私は咄嗟に顔を俯ける。


「どこ行ってたんだ!」


お父さんの今までに聞いたことのない切羽詰まったような怒鳴り声。

やっぱり私を叱るために鬱陶しいくらいに連絡してたんだ、そう思って苛立ちが先走り、顔をあげると

「だから、それは」

さっきメールしたでしょ、そう言おうと思ったけれど早苗さんが、彰さん、とお父さんの名前を呼んだ。

「…ああ、すまない」

急にしおらしくなるお父さん。

そのせいでのどまで出かかっていた苛立ちも消化不良で、行く場を失いまた飲み込んだ。


「それより」早苗さんは言いながら、お父さんへ向けていた視線を私へと移すと、

「七海ちゃんが、無事でよかったわ……」

口元に手をあてながら、くぐもった声で言葉をもらした。

「そうだぞ。七海に何かないかって心配したんだからな」


二人へと交互に視線を向ければ、青ざめた顔が二つあり、

「……ごめん、なさい」

咄嗟に口をついて出た。


さっきまでみんなのこと嫌いって思って、喧嘩して出て来たはずなのに、どうしてだろう。


「ここじゃああれだから、まずはリビング行きましょう」

早苗さんが鼻をすすりながら、言った。


「…そうだな」


いつものお父さんより少しだけ気まずそうに頭をかくと、力ない足で廊下を歩く。


「ほら、七海ちゃんも」

私の背中を支えるようにそっと手を添えると、そこから温もりが伝わって。
小さく頷いて足を進めた。
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