だから私は、今日も猫を被る。

13.壊れた思い出



お昼ごはんを食べ終わって、しばらく部屋にこもっていると、ふいにドアをノックする音が聞こえて、目を開ける。


「七海ちゃん、私だけど」

早苗さんの声がわずかに聞こえた。


今は、会いたくなかった。
けれど、私がドアを開けない限り早苗さんはそこにいるだろう。
もぞもぞと起き上がると、ふう、と息を吐いてスイッチを切り替える。

「はーい」

と返事をしながらドアノブをひねった。


するとすぐに眉尻を下げた早苗さんと視線がぶつかった。
少し下に目線を向ければ、早苗さんの足にしがみついていた美織ちゃんの姿も見えた。


「どうしたの?」
「あのね…」

気まずそうにすると私の目の前で手のひらを広げ、

「これ、美織が壊しちゃって…」

申し訳なさそうに声を綴った。


早苗さんの手のひらに視線を落とせば。

「えっ……」

私がこの前美織ちゃんにあげたブレスレットの糸が千切れて、ビーズが緩んで何とも無残な姿になっていた。

ガンッ、と硬いもので頭を殴られたような衝撃が走る。
目の前が一瞬霞(かす)んだ。


「美織が遊んでいるとき、おもちゃに引っ掛けてしまったらしくて」
「おもちゃ……」

無意識にもれる声に、小さく頷いた早苗さん。

「私が少し家事で目を離したときに…」

言いかけて、口を閉じると、一瞬美織ちゃんへと視線を移した。

私もそこへ視線を向ければ、美織ちゃんはささっと顔を引っ込める。


「七海ちゃんにせっかくもらったのに、ほんとにごめんね」

私へと視線を戻した早苗さんは、申し訳なさそうに眉尻を下げていた。


いつものように大丈夫だよって、笑って言えたら何事もなかったかのように時間は過ぎ去ってゆくはずなのに。
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