だから私は、今日も猫を被る。

15.先輩、あのね




あお先輩の手にひかれてやってきた公園のベンチに、へたり込むように腰掛けた私。


「どっちがいい?」


尋ねられて顔をあげると、両手に一本ずつ持っていたペットボトル。紅茶とコーヒー。公園の中にあった自販機で買ってきたのだろう。

しばらく悩んで、私はおもむろに手を差し出して紅茶を掴んだ。


「…ありがとう、ございます」
「いいよ」


隣へ座ると、すぐにパキッとキャップを開ける音がする。
その音へ意識を注いでいると、

「それで」ふいに聞こえた声に視線を向ければ、あお先輩と視線がぶつかって。


「何があったの」

真っ直ぐの瞳で私を捉えた。

答えない代わりに、先輩は、

「何かあったから俺を頼ってくれたんだよね?」

先輩の視線を隣から感じながら、私は躊躇いがちに小さく頷いた。


ほんの十分ほど前の出来事を思い出すと、またふつふつと煮えたぎるような感情が込み上げてくる。
このままだと感情任せにひどい暴言を吐いてしまいそうだと思った私は、地面へと視線を落とすと、ふう、と呼吸を整えた。


「お父さんと喧嘩して家を飛び出してきたんです」


ゆっくりと顔をあげながら、自分を落ち着かせるように言葉を呟いた。


「どうして喧嘩したの?」

「妹が」

言いかけて、やめる。途端にのどが苦しくなったから。

そんな私を心配して、「ゆっくりでいいよ」隣から声がする。
落ち着いた、平坦な声が。私の鼓動を正常にしてゆき、

「……私が大切にしていたブレスレットを、妹が壊してしまったんです」

けれど言葉を口にすると、よりいっそうそれが現実味をおびて私の心はズシンと沈んだ。
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