いつか咲う恋になれ
「ねぇ……紗倉さんに相談というかお願いがあるんだけど」

香月先輩の相談?何だろう。全く想像つかないけど、何かめっちゃニッコリしてる。

「私で良ければ……何でしょうか?」

私なんかで大丈夫かな。背筋をピンと伸ばし、緊張しながら香月先輩の話の続きを聞く。

「俺と『恋愛ごっこ』しない?」

「……え?」

私はキョトンする。

聞き間違え……だよね。恋愛ごっこなんて香月先輩が言うはずないし。もしくは冗談かな。そうだ、きっとそうだ。

「もしかして冗談だと思ってる?」

「ち、違うんですか?」

「本気だよ……って言ってもホントに恋愛ごっこだけどね。二人の時だけ彼女やってみない?俺に恋愛の雰囲気を教えてよ」

彼女やってみない?って軽いノリで言われても今は恋愛する気になれないし……それにしても何で私に言ってきたんだろう。

「でも私、まだ恋愛はいいかな〜って。それに香月先輩の彼女役だったら誰でも引き受けてくれるんじゃ……」

私は引きつった笑顔でやんわり断った。

「誰でもいいって訳じゃないよ。俺は紗倉さんと恋愛を楽しみたいと思ったんだ」

香月先輩の爽やかな笑顔に魅了され、私は何だか断れない雰囲気になる。まぁまだ好きな人も出来そうにないし……引き受けてもいいか。

「……分かりました。でも恋愛ごっこって何をするんですか?」

香月先輩の彼女を引き受けた私は、詳細を尋ねる。簡単に言えば二人の時だけ彼氏彼女のふりをして楽しむことが目的みたい。

「よろしくね」

そう言って香月先輩はショートケーキの上に乗っている真っ赤な苺をフォークで刺し、爽やかな笑顔をしながら私の目の前に差し出してきた。

これ、あーんって口を開けて食べないといけないやつかな。めっちゃ恥ずかしいんですけど。

でも先輩は私が食べるのを待っている。「よろしくお願いします」と言いながら私は差し出された苺をパクッと食べた。

気楽な感じで恋愛ごっこを始める事にしたけど、この時の選択が正しかったのか…私は後に知る事になる。
< 29 / 163 >

この作品をシェア

pagetop