【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

「一日我慢するから、夜は付き合って」


耳元に囁き入れられる。もう、ぜんぜん断る言葉が浮かんでくれない。


「柚葉」

「は、い」

「たっぷりあまやかすから、その気でいてね」

「……はずかしい、です」

「意識してくれるならうれしい」

「しすぎて、落ち着かないです」

「あはは、残業にならないように俺が調整します」

「それはだめです」

「じゃあ、ぴったりに終わらせて、おとなしく俺に抱かれてください」

「もう、」

「約束ですよ、かわいい俺の奥さん」


とびきりの笑顔で、あまい口づけをくれた。

長らくベッドの上でくっついていたくせに、いつもと同じ時間に家を出られてしまうから不思議だ。

遼雅さんは、どこまでも完璧な人だと思う。




『――さん?』

『佐藤さん?』

「あ、ごめんなさい。ええと、専務の予定は、木曜の3時からなら、2時間程度調整できます」

『ああ、じゃあ、そこ押さえてください』

「承知しました」


受話器を置いて、息を吐く。

完全に上の空だ。

今日も大忙しの橘専務は、休む暇なく外勤に出て行ってしまった。戻るのは退社の1時間前だ。

そこから雑務を済ませて本当に定時に帰ろうとしているのが伝わってくる。

毎週金曜に専務から頼まれていたはずの業務がなくなっているから、本気で私のことも定時で上がらせようとしているらしい。


「……ああ、もう」


朝から思考が、堂々巡りだ。
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