【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

「うん?」

「だめです」

「だめ?」

「そのあまやかしは、だめです」


なるべく楽しく二人でやって行こう、と話したときに、人を依存させるような行動をしてしまったら、声に出してほしいとお願いされていた。

咎めるようにつぶやけば、後ろで遼雅さんが黙り込んでしまう。


「遼雅さん?」

「ごめん、完全に、柚葉さんに知ってほしくて、暴走しました」

「う、」


理由までかわいらしいから、依存したくなってしまうのだろう。抱きしめる腕の力が緩んだ隙に、上体を捩って遼雅さんのほうを振り返る。

予想通り、少し困ったような笑みを浮かべている。

もう、どうしてそんなにも可愛らしいのだろう。


「遼雅さん」

「うん?」

「すこしも疑ってなかったので、安心してください」


真剣に言って笑ってみれば、遼雅さんの瞳が揺れた。同時に体から力が抜けたらしい遼雅さんの手が、ぎゅっと私を抱きしめてから、もう一度見つめ合う姿勢に戻してくれる。


「……ああー、もう」

「遼雅さんの奥さんは、私です」

「うん」

「試したり、勝手に疑ったりしないですから、安売りはダメですよ」


背の高い、大きな人を諭している自分が不思議だ。

しゅんとしてしまった人の頭を柔く撫でて、目をまるくした遼雅さんに思わず笑ってしまう。


「ふふ、」

「……ああ、もう、だめだー」


ふにゃふにゃになった遼雅さんが肩に頭をこすり付けてくる。その匂いでさえやわらかくて素敵だから、橘遼雅は危険なのである。


「遼雅さん、もう、私帰らないと」

「うん」

「遼雅さん?」

「柚葉さんの唇に、キスしてからでもいい?」


ぱっと顔をあげて、首をかしげていた。そのくせに、私が吃驚しているうちに、唇に柔らかに乗せられてしまう。


「ああー、かわいい」

「りょう、」

「……あと、もう一回抱きしめて良いかな」

「10秒だけ、なら……?」


疑問形の私なんて気にしない遼雅さんの熱に、すっぽりと包まれてしまう。こうなると全部がどうでもよくなるから本当に危ない。


「かわいい、はやく帰りたい」

「はい、待ってますね」

「ああ、もう。……今すぐ食べたい」

「りょう、」

「ゆっくり待っててね」



橘遼雅は危険です。
< 45 / 354 >

この作品をシェア

pagetop