いかないで
「兄さん……」

未夏は畳に置かれた軍服をそっと抱き締め、軍服の匂いを嗅ぐ。今は畳の匂いしかしないこの綺麗な軍服は、戦場に立てば誰かの血で汚れてしまうのだろう。

未夏が顔を上げると、鉄平はひまわりを見つめていた。二人でよく見つめたひまわり。このひまわりを二人でもう一度見られるのか……。未夏の胸がギュッと痛くなっていく。

そして別れの時がやって来てしまった。駅には多くの徴兵された人が軍服に身を包み、見送りに来た家族に「必ず勝って帰る」と笑って話している。

「未夏、必ず帰ってくる。だからそんな顔をするな」

軍服を着た鉄平が微笑み、未夏の頭を撫でる。しかし未夏は泣かないようにするのが精一杯で、他の家族のように勇気づけたり励ましたりすることはできなかった。

列車の汽笛が鳴く。もう鉄平は行かなくてはならない。

「じゃあ、行ってくる」

鉄平の手が未夏の頭から離れていく。温もりが一瞬で消えた。未夏が前を向けば鉄平は列車へと乗ろうとしている。未夏は震える手を必死で伸ばした。
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