地味で根暗で電信柱な私だけど、あったかくしてくれますか?
 二回目のコールが終わらぬうちに通話アイコンをタップする。

「やっほー、ゆかちゃん元気?」

 朝っぱらからハイテンションな声を聞いて私はげんなりした。

「何? 今日は早番だから時間ないんだけど」
「いやいや、そんな冷たいこと言わないでよ」

 電話の向こうで三つ上の姉のあおいが苦く笑むのが思い浮かぶ。私と異なり母に似て丸みはあるが可愛らしい顔の持ち主だ。それはたとえ苦笑しようと少しも損なわれない。

 私ははぁっとため息をついた。

「それで? 何なの?」
「わぁ、ゆかちゃん感じ悪い」

 そんなの今に始まったことではないはずだ。

「切ってもいい?」
「ええっ、切らないでよ」

 酷く慌てた調子で姉が話しだす。

「あのね、今日って草薙教授の『ネットに熱湯をかけてみた』の最新巻の発売日でしょ? 午後にゆかちゃんのお店に買いに行くからとっておいて」
「別にいいけど。でも、本ならわざわざ私のところに来なくても買えるよね」

 姉のマンションは吉祥寺にある。職場は新宿の老舗書店だ。

 単に本が欲しいなら私の店にくる必要はない。
 
 
 
< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop