転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 外国からのツアー客を番頭のテオに引き継ぎ、従業員控え室に向かう。館内チェックをしながら歩いていると、ピンクブロンドのお団子頭が視界に入った。

「ダリア。お疲れさま」

 客室から出てきたダリアを労うと、彼女はキリッとしていた表情を緩ませた。

「……ああ、シャーリィ。今は見回り?」
「うん。そんなところ」

 二人並んで廊下を歩く。途中、向こう側から歩いてきたお客をお辞儀をしてやり過ごし、ダリアが声量を抑えて言う。

「そうだわ、シャーリィ。たまには私の買い物に付き合ってよ」
「……私でいいの?」

 貴重な休日を過ごすのに適した相手は他にいるのでは、と戸惑っていると、その心配を見透かしたようにダリアが口角を上げる。

「もちろんよ。カタリナも誘って三人でショッピングしましょ! どうせ、シャーリィは休日も満足に取っていないんでしょ? 毎日のようにあなたの顔を見るもの。それに、アークロイド皇子のことも聞きたいし」
「それが本音ね……」
「あら、やぁね。ついでに情報収集したいなっていう乙女心じゃない」
「それは乙女心とは言わないと思うわ……」

 歩きを再開し、従業員用の通路の扉を開ける。薄暗い照明に照らされた階段を下りていく。密閉された空間の中、ダリアのワントーン高い声が反響した。

「週末は皆忙しいし、平日ならツアーがない日もあるわよね?」
「もう決定事項なのね。……明後日なら時間が取れると思うけど、二人とも、休みは取れるの?」

 急に二人同時に休むのは厳しいのではないだろうか。そう危惧したシャーリィだったが、ダリアは楽しげに笑う。

「ふふ。こういうときに持つべき者は友よね。いざとなったら、誰かに代わってもらうから大丈夫よ」
「わかった。じゃあ、お休み申請しておくわ」
「十時に中央広場で落ち合いましょう」

 段差をリズミカルに降りていく足取りは軽やかだ。
 先を行くダリアが扉をゆっくりと開くと、まぶしい光量が視界を覆う。けれどそれは一瞬で、すぐに見慣れた照明が目に入る。

「じゃあ私、急ぐから。またね」

 ダリアが早足で去っていくのを、ひらひらと手を振って見送った。
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