もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 リスと似た小動物さん達とお近づきになれた切っ掛けは、今日と同じように籠に入れた果物をおやつに持って来て、果物を残したまま昼寝していた時だった。

 あの時は驚いたなー。目を開けたらすぐ近くにリスさんがいたんだから。目が合って、お互いに硬直しちゃったけど、ピューッていなくなっちゃって。あの時に比べたら慣れてくれたよね。

 それ以来、こうして森に来る時はたまに果実を持って来るようになったのだ。

 鈍化していた精神が正常へと戻って来ると、やはり誰とも話さない生活は寂しくなる。
 思えば、いくら疲れ果てていてのんびり過ごしたいと思っていたって、何年も一人きりで誰とも会話もない生活になんの寂しさも覚えなかったのは、さすがにおかしかしい。

 これも神様のいたれりつくせりの一環だからありがたいけど、そうなると街へ行く準備を急がないとな……。

 この世界のことについて書かれている本も読んで勉強しているが、最近は読むペースが自然と上がっている。
 この家から出て行く気はないが、寂しさが耐えられなくなる前に街に出掛けて人とふれあえるようになりたい。

 その為には本を読んで勉強するだけじゃなく、シルビィーとしての能力を身に着ける訓練もしないといけないのだけど……。これが一番大変なんだよね。

 シルビィーについて書かれた本を何度も読み込んで、本に書いてあった通りに気配を消しながら風を纏って走る訓練や、木に一体化して隠れる練習、相手の気配を探る練習なども少しずつ始めている。
 けれど。

 ……気配を消すって、難しいんだよね。自分では消したつもりでも、すぐにリスちゃん達に気づかれているし。うーん。やっぱり私には野生の本能が無いのかな……。

 草原で気配を消して鼠や虫の気配を探る、という練習もしているが、これも中々上手くいっていない。
 相手に気取られることなく移動する術を完璧に身に着けるのが目標だ。

 というか、逆にそれができなければこの結界から外に出たら、私なんてすぐに魔物に襲われるよね……。魔法で攻撃することは可能かもしれないけど、実際に出来るかどうか、と言われたら……。

 籠の果実がほとんど無くなったのを見て、じりじりとリスの方へと匍匐前進して近づくと。
 あともう少し、というところでピューッとあっという間に木の上へと消えて行った。
 最初に比べればかなり近づけるようになったから、いつかは身体の上に乗ったりもふもふさせてくれるようになる、そう信じている。

 そう信じでもしないと、やっていけないよね……。ねえ、神様。さすがにそろそろもふもふを愛でたいです。

 人化している時は家で見つけたブラシで尻尾をブラッシングしてもふもふしているが、やっぱり自分の尻尾だけだとちょっとせつない。

 私の尻尾はそりゃあ艶々だし、ふわふわでとっても触り心地のいいもふもふだけど。でも、やっぱり自分じゃなくて、もふもふを愛でたいよね……。

 話し相手がいないなら、せめて傍らに温もりが欲しい。

 ふう、とため息をつくと立ち上がって粗方果物が無くなった籠を咥えると、今日の目的である野草や芋などを探し始めたのだった。
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