もふもふになっちゃった私ののんびり生活

『ふう。ここまで来れば、大丈夫、よね?もう、なんだったんだろう、あの人』

 あの人、大きかったな。熊のライルさんよりも更に背が高かった。それに、真っ赤な髪だったけど、目は金色だった。……あの人が言ってた番って、あの番、じゃない、よね?

 ついじっとしていると、先ほどの男性のことを考えてしまい、思わず顔が頭をよぎってブンブンと頭を振って追い払う。
 その時に、前世で読んだ獣人との恋愛をテーマにした作品で良く目にした「番」とその言葉の意味を思い出し、慌てて立ち上がった。

 そのまま魔物の気配がないことを確認すると、結界を消して風を纏うと木々の間を蹴って空へと上がり、目印を確認するとそのまま森の中を一目散に駆け出した。

 迫る夕暮れと共に頻繁になる避けきれない魔物を結界を張ってやり過ごすごし、やっともうすぐ結界にたどり着く、そう思って気を緩めそうになった時。

「見つけたっ!なあ、お願いだ。何もしないと誓うから、俺の話を聞いてくれないか」

 街に置いてきた筈の赤を視界にとらえたのだった。

 ええっ!私、気配殺しているし、それに匂いも漏れていないよねっ!なんでここが分かったの!?

 何で先回りして目の前にこの人がここにいるのか。それが分からなくて混乱する。

 それに私今、獣姿だよね?何でこの人平然と話し掛けて来るのっ!

 私が動転して戸惑っているのを、街でのことを怒って口を開かないとでも思ったのか、いきなりその男性は荷物を放り出してその場で土下座した。

「その、街ではすまなかったっ!!そりゃあ、こんな大きな男にいきなり掴みかかられたら怖いよな。すまんっ!この通りだっ!だから、少しだけでも俺の話を聞いてくれっ!」

 ど、土下座!って異世界にもあったのっ!

 キレイにその場に土下座した男性の姿に、思いっきり引いて後ずさる。そんな私を顔だけ上げてじっと見つめる視線が怖い。

『いきなり土下座されても怖いけどっ!一体どうなっているの!』
「いや、そうだよな。すまない。もうずっと、百年以上も探し求めていた番の匂いを感じて探していたのに、やっと見つけたと思ったら嫌がられて……。俺も動転していたんだ。本当にすまなかった」

 えっ、私の言葉、なんでこの人分かったの?だって今、魔獣の言葉で話したよ?

 男が話した内容など、頭に入らずに更に混乱する。

 セフィーに教わって気づいたのだが、念話ではこの世界の言葉を話そうと思わないと魔獣の言葉になるのだ。神様がくれた能力は、とても臨機応変だったらしい。
< 65 / 124 >

この作品をシェア

pagetop