没落人生から脱出します!
(変なの。お父様やお母様、マクシムとラドミール、誰といてもこんな風に思ったことはなかったのに)

「リアンさん」
「ん?」
「ありがとう」

 リアンは不思議そうな顔をしたあと、「ああ、飯のことなら気にすることはない」という。
 お礼はそれだけではなかったけれど、エリシュカは説明まではしなかった。

 食事を終えた後は、二階の部屋に案内される。

「あまり綺麗じゃないが、一晩だけだから我慢してくれ」

 そこはリアンの個室のようだ。ベッドと、クローゼットと本棚のみの物の少ないシンプルな部屋だ。

「俺は隣の作業場で寝る。この部屋は内側から鍵がかかるから、安心してくれ。トイレは一階にある。風呂もあるが……一日くらいはいらなくても平気だろう?」

 エリシュカとしても、さすがに年頃の男性とふたりきりのところで、無防備に裸になるつもりはない。

「はい。大丈夫です」

 リアンは自分用の毛布や本をひとまとめにして、部屋を出ていく。

「なにからなにまでありがとう、リアンさん」
「……いや、いい。おやすみ」

 彼の背中にそう言えば、どこか寂しそうな声で、リアンが答えた。
 リアンと過ごした日々を思い出せたらいいのにと、エリシュカはぼんやり思った。

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