没落人生から脱出します!
 だが、その願いはかなわなかった。ある日、リーディエは母が貴族の従者からお金を受け取るところを見てしまう。

『こちらが、今年の分です』

 母を問い詰めれば、そのお金は父親の奥方が手切れ金として用意したもので、リーディエが十五歳になるまで、毎年手渡すと約束されたものなのだという。

『申し訳ないけれど、お父様のことを詮索しては駄目よ。これはお前が暮らすためのお金で、お前が父親の前に姿を現したら、止められてしまうの』

 母は神妙な顔でリーディエに諭した。そんな風に、母がお金で割り切っていることが、リーディエにはショックだった。
 その日以来、リーディエは貴族が嫌いだ。貴族なんて身勝手で、人の気持ちなど考えていない。
 リーディエが欲しかったのは、お金なんかよりも、抱きしめてくれる腕だったのに。
 そしてリーディエが十五歳になると、そのお金さえぴたりと止まった。

(切り離されたんだ、私)

 顔も知らない、名前さえ教えてもらえないまま。たったひとつのつながりさえ、こんなにもあっさりと失われる。
 もういっそ、父親のことなど考えるのは辞めてしまおう。
 そう思って、自分に目をむけたとき、リーディエは自分のどこに価値を見出していいのか分からなかった。

(私の体も、服も、食べ物さえ、汚らしい貴族たちから施されたもの)

 貴族なんて大嫌いだ。けれど、リーディエの半分は貴族だ。
 貴族としての恩恵にあずかることはなく、リーディエは平民の中でも私生児として蔑まされる。
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