東京ヴァルハラ異聞録
そう判断して、振り返って必死に走る。


だが、ポーンと呼ばれた化け物は異常なほど素早くて。


「うげっ!」


「ぷぎゃ!」


化け物に殺られたのだろう。


無惨に飛び散った、人の残骸が辺りに飛び散り、光に変わる。


そして、路地の両サイドのビルを蹴り、俺達の正面に回り込むと、口にくわえた山瀬を噛み砕いたのだ。


「あぎっ」


小さく、そう悲鳴を上げて、ポーンの口の中へと入って行く山瀬。


ゴクリと飲み込むと、俺達を睨み付けた。


残ったのは……俺と悟さんだけ。


あれだけいた人達が、あっさりと全滅させられてしまったのだ。


「さ、最悪だな。逃げられもしない。呼んでも誰も味方が来ないわけだ。こいつにやられたのか?美佳さん、昴、死ぬ気で追い払うぞ。追い払うくらいならなんとか出来……」


槍を構えて、ポーンと対峙していた悟だったけど……そこまで言って、気付いた時には左側の壁に叩き付けられて、全身から血を噴き出している姿へと変わっていた。


何が起こったのか。


全くわからないけれど、ポーンの左手が赤く染まっているからきっとそういう事なのだろう。


光の粒に変わった悟を見ながら、俺はここで死んでしまうんだと理解した。


一歩も動けない。


日本刀を構えたまま、ポーンの口が開いたのが一瞬見えて。


胸の辺りに鋭い痛みを感じたけど、何も考えられなくなった。


恐らく、胸から上を噛みちぎられたのだろう。


思ったよりも苦しみはなかった。


何もわからないまま、俺は死んだ。
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