東京ヴァルハラ異聞録
「ちょっと強いからって何よ!あいつが面倒臭がらなきゃ、昴くんが大怪我をする事もなかったんじゃない!」


篠田さんが去ってからも、梨奈さんの怒りは収まらない。


「ま、まあまあ……タケさんだって何か思うところがあったんだろうからさ。それに言ってただろ?北軍に侵攻しろって。上手くやれば、きっと教えてくれるって」


悟さんが梨奈さんを宥めようとするけど、そんな事は関係ないと言わんばかりに悟さんを睨み付ける。


「あんたが教えてくれてもいいのよ?知ってるのはあの男だけじゃないんでしょ?」


「いや、まあ……その。なんだ、困ったな。昴、助けてくれよ」


と、言われても。


美佳さんはこの事には興味がなさそうだし、俺だって情報はほしいけど、今のままでは無理だと痛感したばかりだ。


「篠田さんが教えてくれるまで待ちましょう。居場所を知ってるって事は、真由さんは無事なんでしょうから。俺達はもっと強くならないと……」


光輝との戦いが、俺の意識を変えた。


まだ怖くはあるけれど、もう逃げない。


「昴くんまで。全く、あの男は何者なのよ?」


「タケさんは……西軍で一番強い人だよ。怖い人だけど、それ以上に優しい人だよ」


西軍で一番強い……。


悟さんのその言葉に、俺は思わず息を飲んだ。


橋の上で戦っていたら、今頃ここに立っていなかっただろうと。
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