溺愛フレグランス
ためらいという名の偽物


あの日以降、本当に朔太郎は私の前に姿を見せなかった。
私の実家にはちょくちょく来ている。それはお母さんの話を聞いて分かっている。
モフ男が私の知らないリードを付けていたり、お父さんが諦めていたパソコンの練習に励んでいたり、朔太郎は私の知らないところで私の家族にたくさんの幸せを与えていた。
私以外に、だけれど。

「朔ちゃんはどこそこのパソコン教室の先生より教えるのが上手いって、お父さんが絶賛してた。
お父さんなんか見るのも嫌だって言ってたパソコンが、今は楽しくてしょうがないみたい」

私がモフ男の新しいリードを触っていると、お母さんがすぐにそれについて説明してくれる。

「それはね、モフ男はもう歳だからって、足腰に負担がかからないリードを朔ちゃんがプレゼントしてくれたの。
モフ男も気に入ったみたいで、全然嫌がらないのよ」
「ふ~ん」

私が不機嫌にそう言うと、お母さんは慌ててこう付け加える。

「あ、そういえば、朔ちゃんが、晴美に市役所の人達との食事会は土曜日でいいの?って。連絡ちょうだいって言ってた」

私はそのお母さんの伝言に少しだけ胸を撫でおろした。
朔太郎の徹底した私に会わない作戦は、この飲み会も中止にせざるを得ないものなのかと不安に思っていたから。

「うん、分かった」

私は不思議と機嫌まで良くなっている。
やっぱり、私だって朔太郎に会いたい。


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