無口な彼の熾烈な想い
てっきり周囲は男女のお付き合いを画策しているのだと思っていたが、お友達とは拍子抜けだった。

しかし、絢斗も鈴も立派なアラサーの大人だ。

周りが段取りをしてお友達を作る年齢ではない

そんなことされても絢斗とて不本意に違いない。

「お友達は強制されてなるものでも、お膳立てされて作るものでもないと思いますよ。私には親友と呼べる友達がたった一人しかいません。たまにしか会えませんが現状に不満はないし、お互いが困った時には一も二もなく駆けつける自信があります。会えなくても心の支えになっています。きっと瀬口シェフにもそんな存在がいるはずですよ。ここの料理をみていればわかります」

相手を思いやり敬う心を持ったシェフ。

そんな気持ちが、相手の心を開かないはずはない。

残酷にもリスのマジパンを頭から噛り、鈴はニッコリと笑って首を傾げながら言った。

「そうね。結局は絢斗自身の問題ということなのよね・・・」

「え?何かおっしゃいましたか?」

綾香の声が小さすぎて聞こえなかったため、鈴は思わず聞き返したが、綾香は

「なんでもないわ」

と首を振って、笑顔でガトーショコラにフォークを突き刺した。

なんだか妙に瞳にやる気がみなぎっているのは気のせいだろうか。

なんにせよ、美味しいは正義。

これでコース料理は終了なのだ。

大好きなイチゴタルトを堪能しない謂れはない。

「うーん。幸せ」

このクリスマスを意識したシャンパン風味の紅茶も美味である。

最初は不安しかないディナータイムだったが、あいにくテーブルには絢斗は不在。

兄夫婦の横やりや、綾香様からの意味不明な無茶ぶりなど、余計なボーナスステージ発生といったイベントもなく終了しそうで安心した。

思ったよりも穏やかで人当たりのよい美女・綾香の軽快なトークに和まされながらの一時は、大変満足のいくものだった。

「今度、イケメン好きの親友を連れて食事に来ようと思います。そのときはよろしくお願いしますね」

「気に入って頂けて嬉しいわ。是非ともそのお友達もお連れになってね。・・・一つ聞くけど、その親友は男性ではないわよね?」

「残念ながら、三次元イケメンではないですねー。腐女子?」

「良かった」

フフフと、綾香は笑った。

まだ諦めてはいないのか、と鈴は少し呆れたが、食事中にすすめられて杯を重ねたシャンパンワインが効いてきたのか、まあ、いいかと鈴も笑った。
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