離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
忘れられなかった顔
 九月も半ばだというのに、真夏が一日戻ってきたような暑い夜。

 私はトイレの手洗い場にある四角い鏡に映し出された自分の姿を、ぼんやりと見つめる。

 ラベンダー色のパーティードレスに合わせていつもよりしっかりめにメイクした顔からは、感情が微塵も感じられなかった。

 ホテルに入ったら緊張して動けなくなるかもしれないと思っていたのに。

 ゆるく巻いてハーフアップにした焦げ茶色のセミロングの髪を軽く整え直し、私はふっと息をつく。長年待ち望んでいたその瞬間が間近に迫ると、私の気持ちは不思議なくらい落ち着いていた。

 あの男がここにいる。あれからもう八年以上が経ち、道のりは長かったけれどなんとか辿りついた。いや、勝負はこれからか。

 冷ややかに燃えた眼差しが、鏡越しに私自身を貫いた。耳につけた小ぶりな三連のパールのピアスが静かに揺れている。

 よし、行こう。
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