離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 高校まで一緒だった郁実との交友関係は大人になった今でも続いていて、四年制の大学を卒業した郁実が社会人になってからは頻度こそ減ったけれど、今でもひと月に一回、だいたい金曜日の夜にこうして食事に来ていた。

 偶然にも郁実が就職した広告会社が、カフェの入るビルと同じオフィス街にあるというのもすごい縁だと思う。

 私の思考は、郁実がビールジョッキを机に置いた音で途切れた。

「だって高城って、親父さんの……」

 そこまで言いかけて、彼は口をつぐむ。

 うちの事情を知っている郁実には、私の報告は理解できないものだろう。父の仇と結婚すると言っているのだから。

 やはり言わないほうがよかったかな。

 父が亡くなり、引き取られた叔母の家は、私たちがいた商店街から車で一時間ほどの距離にあった。
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