離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 そこにいた人物を視界に捉えた私は、驚いて目を何度も瞬かせる。

 どうしてここにあの男が……。

 その人物はカウンターの中にいた私の姿を見つけ、こちらにやって来た。

「いらっしゃいませ。悠人さん、どうしてここへ……」

 現れたのは、今朝も家から仕事に行くのを見送った高城だった。

 黒いスリーピースのスーツに青いストライプのネクタイをした高城は、驚きの表情を浮かべる私を見てふっと小さく笑みをこぼす。

「忙しくて食事はできないけど、ひと目顔を見たくて。でも、おかげで今日は早く帰れそうなんだ。終わる頃に迎えに来るから一緒に帰ろう」

 言い終えた男は、さらに「アイスコーヒーのブラックをふたつ。テイクアウトでお願い」と告げる。

 私は困惑しつつも高城の会計を済ませ、飲み物を入れる作業台がある、カウンターの左側に移動する。
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