これを愛というのなら
準備は、受付時間ギリギリに終わって。

受付を済ませた生徒さん達は、料理教室のスペースに向かう中に。


「あそこの写真のモデルさんのお二人ですよね?」


壁側に立っていた俺たちを見て、聞いてくる生徒さんもいたり。

俺たちの模擬挙式や披露宴を見て、決めてくれた生徒さんもいて。

やってよかったな、と思ったよ。

はじめて。



料理教室も無事に終わったらしく、鈴木と早織さんと。

見送りも済ませた梓が、事務所に戻って来て。


「蓮?結城さんが呼んでるよ」


わかった、と。

早織さんの所へ行くと。


「ここの調理用品のアドバイス、蓮くんがしてくれたんだって?さすがね、生徒さんの立場に立って。アドバイスしてくれたのね。生徒さん達も、これなら家にあるフライパンや鍋で作れるって喜んでたわ」


それと、材料も手頃で使いやすいものにしてくれてる。


「本当なら、私がしなきゃいけないのにありがとう」


早織さんの教え子だからな、と答えると。


「相変わらずね。相手が喜ぶとか考えずに、さらっと言ってしまうところ」


「思ったことを口にしてるだけだ」


「だから質が悪いのよ。あの子、苦労するわね」


「梓は、俺のことわかってるから。いちいち嫉妬しねぇよ」


あら、そう。


「本当に本当に、あの子が大好きなのね」


「あぁ。早織さんも幸せになって」


そうね。


少し寂しそうに、早織さんは。

帰るわね、と。

そして最後、梓に。


「講師は続けるけれど、ごめんなさいは言えないわ。蓮くんをよろしくね」


そう言って、微笑んで。


ありがとうございます、と。


梓は、早織さんに頭を下げる。


普通なら、出来ないと思う。

泣くほど、辛いことか悔しいことを言った相手に。

早織さんも驚いていて。

南も、鈴木も。



責任感が、人一倍強い梓だから。

きっと、講師が副社長の友人だからどうしようって。

自分のせいでって思っていたんだろう。


だから、ほっとした。

その、ありがとうございます。


だったら、余計に俺が心も守ってやらないとな。



早織さんが帰った後、崩れるように俺に抱き付いてきた梓を受け止める。


「気が緩んだんだね。私は鈴木に送ってもらうから、梓を頼んだわよ」


「料理長はやっぱり、カッコいいです。惚れませんけど。お疲れ様でした!」


「あぁ、お疲れさま。二人ともありがとな」


南と鈴木が帰った後。

堪えてたものが、爆発したように声を上げて泣き出す梓の背中を擦る。


「蓮……蓮……ありがと……」


泣きながら、言葉にしてくれて。

また、俺の名前を言う梓に。


「ん?」


「…私…蓮に守られてばかりだね…」


「言っただろ?ずっと守るからって。だから、気にせずに守らせろ」


うん、うんと胸の中で頷いて。

少しだけ落ち着いた梓に、帰るぞ。


「帰ったら、ゆっくり話そう」

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