これを愛というのなら
chapter:12
お正月のブライダルフェアーーー。

この日も、私はA棟でインカムを付けて準備に追われていた。


当然、あの日以来。

まともに顔を合わせた島田さんも居るわけで。

すごい形相で睨まれ、

料理長とキスしそびれたじゃないですか!

恨み節を言われ、深い溜め息が漏れた新年早々の仕事となった。


私に恨み節を言うくらい根に持っているなら、1回くらい蓮の唇を譲ってあげればよかったのかな。



そんな事を考えながら、動いている私は。


「やっと見つけた!」


2階の倉庫で、利香に捕まった。


「梓にお願いがある!」


捕まえて、いきなり言われて。

どうしたの?という私に、モデルさんの代役やって!と。


「えっ?A棟はどうするの?手配してたはずのモデルさんは?」


頭に浮かんだ事を利香にぶつけると。


「A棟は、今日は私が代わるから。少しはA棟に居た時期あるから任せて!モデルさんは男性も女性も、風邪ひいて来れないって連絡あって、この正月に他は見つからない。だからお願い!」


手を合わせて言う利香だけど。

私にモデルなんてできないよ!って言ってみたけど。


「プランナーの綺麗所は、みんな今日は無理だし。梓しかいないの!お願い!」


頭まで下げた利香に、これ以上は断れなくて。

わかった、と承諾すると。


ありがとう、恩に着る!と、手を引かれて事務所に引っ張って行かれた。


利香がチーフに、私の許可をもらった事を報告して。

新郎新婦用の控え室に連れて行かれる途中。


「フェア用の指輪のサイズって何号?」


急ぎ足の利香に聞かれて、17号と9号だよ、と。


「じゃあ、梓は大丈夫ね?料理長は?」


蓮はわからない、と答えると。


陽介さんに聞いてもらうよ。


ちょっと待って!

新郎の代役って……蓮?


「新郎の代役が料理長で、陽介さんがお願いしに行ってくれるから」


聞く前に、答えてくれた利香は。

文句なら受け付けない!


「新婦の代役が梓なのに、新郎の代役の適任は料理長以外に、いないでしょ?」


そんなに言われたら、もう何も言えないじゃない。


控え室に行ってね、と微笑んだ利香にインカムを渡して。

新郎新婦控え室に、少し重い足取りで向かった。





「あらっ!倉本ちゃんが代役?」


いつもの美容師の山田さんが、ニコニコしながら、出迎えてくれて。


そうなっちゃいました、と答えた私をドレッサーの前に促して。


「倉本ちゃんはね、化粧映えするわよ!新郎の代役は、料理長らしいじゃない。惚れ直すわね」


そんな事を言いながら、私の普段の化粧を取ってくれている。


山田さんも、社内に広まった蓮と私の関係はもちろん知っているんだけど。

ちょっと照れくさくて、顔が赤くなる。


髪もウィッグを付けられ、普段とは違うメイクをされて、

鏡に映った自分は別人で。


「やっぱり、倉本ちゃんは化粧映えするわ!綺麗よ!」


と、言って、肩をポンポンと叩いてくれて。

ビスチェタイプで、ベルラインのドレスを着せられて、

身長が高い蓮に合わせて、5㎝ヒールの靴を履かされた。


よく似合ってるわ、と山田さんが言ってくれた時。

ドアがノックされて、どうぞ、と山田さんが言ったと同時に。


蓮が入ってきて、私を見るなり固まっている。
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