愛を語るには、一生かけても足りなくて。
「な、なんで? どうしてユウがこんなところに……」
「どうしてって言われると困るけど、俺がこの店に立ち寄ったのは偶然だよ」
「う、嘘……っ。偶然で、こんなことあるわけないよっ!」
悲痛な声で叫んだアヤメは、やっぱり困った顔で俺を見ていた。
「あれからもう十五年だよ? ユウが、私だってすぐに気がつくのも変でしょう? だって私も、もう二十七になったし……」
戸惑いを隠せずにそう言ったアヤメは、やっぱり今の俺のことは何も知らないみたいだった。
そこそこテレビや雑誌には出させてもらえてるんだけどな。
こんなことをケイちゃんが知ったら、驚いたあとでとてもガッカリするかもしれない。
「別に変じゃないだろ。だって俺が、アヤメを見間違えるはずがないし」
「……っ、」
「今だって、顔を見た瞬間にすぐにわかった。アヤメなら、どこでいつ、どんな出会い方をしていても、俺はすぐに気がつくよ」
必死に俺から逃げようとするアヤメの手を、絶対に離すまいと握り続けていた。
アヤメが今、俺をどう思っていてもいい。
俺のことを何も知らなくたっていいんだ。
とにかくこの偶然を、ただの偶然なんかで終わらせたくなかった。
アヤメのことを、俺はもう二度と離したくはなかった。